「レンズ1本だけで戦場をルポルタージュ」とかいう、カメラ好きが夢想するシチュエーションにおいては、35mm版(135フォーマット)の焦点距離「35mm」のレンズの画角(対角で約63.4度)が、多くの場合で選ばれる。いつまでたっても体が覚えない微妙な画角ながら、Leica M2/M4に35mmレンズというのは、どことなく埃の匂いが感じられるものだ。
一方、2本のレンズ/2台のボディを持ち歩くのなら、迷うことなく「28mm」と「50mm」である。トリオ(28mm/35mm/50mm)の両端に位置するこの画角は、そのいずれもが「標準レンズ」として体に画角が染みついている。カメラを持っていなくても、街を歩けば目の前に50mmのフレームが浮かんで見えるし、路地を歩けば28mm縦位置の構図が飛び込んでくる。
さて、この2本しかない、2本で完結した「ザ・標準レンズ」は、ルポな感じがただよう35mmとともに、所有する本数が増え続けるという宿命を負っている。歴史上有名なブランドのレンズを揃えるのはもちろんのこと、まったく同じレンズを何本も所有し、製造年数や製造場所の違いや個体ごとの経年変化(劣化した描写性能)を楽しむことが普通のこととなっている。
リコーが50mm画角の単焦点レンズ(というよりはカメラ機能付きレンズ)である「GR LENS A12 50mm F2.5 MACRO」を発表/出荷した時、そのカメラ・システム(GXR)としてのトータル・コンセプトこそダメだと思ったものの、「50mm単焦点を固定したカメラを出すとは素晴らしい」と素直に賛辞したものだ。後は「28mm単焦点を固定したカメラ」さえ出せば、GXRのブランドとしての評価が固まる状況だった。
そして本日、リコーは50mmに引き続き、28mm単焦点を固定したカメラ・ユニット「GR LENS A12 28mm F2.5」を発表した(2010年冬の出荷を予定)。これでようやく、28mmと50mmの2台が揃うことになった(当たり前だが、ボディはそれぞれのレンズごとに独立して2台持つことになるだろう)。
リコーの操作性の高さには定評がある。他社製の28mmや50mmのレンズ描写やディジタル処理がどれだけ優秀であったとしても、カメラ本体やレンズ鏡胴の操作性やメカニズムにおいては、リコーは他社の追随を許さない。ディジタルでありながら一定以上の操作性が担保されているところが、リコーの存在意義のすべてである。